絵画モデルはやめられない

20年間、絵画モデルをしていました。謎に満ちた世界の体験を余すことなく綴っています。

絵画モデル時代のエピソード、裏話など満載の体験記。

かなえさんとさちえちゃんと私の三人で、いつかランチでもしたいね、と常々言っていたが2人とも子持ちなので、なかなか実現できずにいた。

一度、ようやく実現しかけたことがあった。
日取りや場所などは独身の私が全て手配し、ようやく明日に迫った時、さちえちゃんから「みゃーこちゃんごめーん、こどもが熱出したのでいけなくなったー」とメールが入った。これはまだ仕方のない事だ。

その直後、かなえさんから「事故って吐き気がするので明日は欠席しまぁす」とメールが入った。

「なんで2人揃ってやねん このタイミングで事故って吐き気てなんやねん」とひとり毒づいた。

そんなことがありなかなか三人揃ってというのが出来ずにいたが、3ヶ月ほどかけて日程を調節し、この日だったら3人とも絶対に大丈夫!というタイミングにようやく恵まれた。

前日も2人からの怪しげなメールは一切入って来ず、明日ようやく3人揃ってのランチができそうだな、とホッとしながら眠りについた。


さて、当日。

10時に待ち合わせ場所の別府のジョイフルに着くと、ちょうど入口にかなえさんが入って行く所だったので、私は晴れ晴れとした気持ちで

「かなえさーん、おはようございまーす!早いんですねえ♫」と声をかけた。

「あ、みゃーこさん、おはよう!あのね、実はね、私今日10分くらいしかいられないのぉん」と言うではないか。

さすがに驚くというものだ。私はまたもやかなえの大ボケ劇場にまきこまれたのだろうか。理由を聞くと

「ちょっと魚を売ってこなくちゃいけないんよ」とのこと。


魚を売るってなんだろう。


2人で入口のところでしばらく話していてふと振り向くと、さちえちゃんが店の奥の席にすでに座っているのが見えた。

しかしなんだか様子がおかしい。

頭の上から怒りの火柱がまっすぐ天井に向かって穴を開けんばかりの迫力だ。

私たちの会話が聞こえていて事態を全て察知したらしかった。


三人で席についた。

かなえさんが相変わらず不思議な会話を繰り広げながら10分ほどでケーキを平らげ、

「じゃあね、ごめんねー」

と聖子ちゃん走りでレストランから出て行ってしまうまで、

さちえちゃんは鬼の形相のまま一言も喋らず、一度もかなえさんと目を合わせようとしなかった。


彼女が出て行った途端にさちえちゃんが口を開いた。

「あのヒトどういうことなの!ランチ会が決まってから3ヶ月も期間あったわよね!今日になって用事があるって意味わかんないわ!だいたいさ、魚売るってなんなのよ!」

私も理論的には全く同感だったのでそうですよね、ほんと意味わかりませんよねと同意した。

私はかなえさんの国宝的大ボケぶりに慣れていたがさちえちゃんはあまり免疫がなかったらしい。

2人でひとしきり彼女の天然ボケぶりについて話した後、次第にヒートダウンし、平和な世間話へと移って行った。


40分ほど経った頃、ジョイフル入口のガラス玄関にかなえさんの姿が現れた。ポーチの所で傘をたたんだりしている。

「あれ?帰ってきましたよ。相変わらず変な人ですねえ」

さちえちゃんは顔半分をひくつかせながら意地悪く

「ふん、サカナ売り終わったんじゃないの?」と毒づいた。


かなえさんが店内に入ってきた。

私は頭の上に黄色い縁取りの、赤くて太くて大きなはてなマークを沢山出しながら、

「ど、どうしたんですか?サカナ売り終わったんですか?」

と動揺した漫画の人物のようにあからさまにどもりながら聞いた。


「う、うん、そうね、もう売り終わったの。あ、それよりも」と彼女は急にA4サイズの巨大な名刺を皆に配り始めた。

それは放射能反対団体メンバーうんぬん的なことを示したかなえさんの名刺だった。

A4サイズなのでチラシか何かと思ったが、本当に文字通り普通の名刺をA4サイズに拡大コピーしたものであった。

「サカナ売ってたんちゃうんかい」

「結局いままでどこ行ってたんや」

「ただの名刺をA4サイズまで引き伸ばしてなんのメリットあんねん」

「おたくの脳みその日程段取りを司るシナプスどうなっとんねん」

もう、何から突っ込んでいいかわからない。

なにもかもが、謎に包まれている。


彼女は放射能の話をしながら隣の席に座っているおばちゃんにも巨大名刺を配っている。

その後、あっけにとられた私たちを置いて、また出て行ってしまった。


まあ、さちえちゃんには災難だったろう。


いろいろ書いたが、私はかなえさんの天然ボケぶりは、大好きだ。



「モデルのかなえさん」シリーズ  完結

ブログ絵画モデルはやめられない」まだまだ続きます!



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※登場人物は全て実在しますが、プライバシーを考えて仮名にしてあります。



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そのようにして、授業が終わった後は毎回かなえさんと駐車場で長い立ち話をした。


初めはお互いが楽しい話題で盛り上がっているが、4、5分すぎてきたあたりから何を話していても必ず放射能の話へ持って行かれた。


「これから帰って夕飯作るの大変ですね」「うん、ファストフードにでも頼れたら楽だけどね。そういえば某ファストフードは放射能をたくさん浴びた野菜使ってるから行かない方がいいよ。他にも放射能にユルい飲食店はね(延々)」


とか

「子どもがいると色々大変でしょう」「うん、この間も幼稚園の先生がお菓子の詰め合わせをくれたんだけどね、ここの会社のお菓子の〇〇って素材は放射能を浴びてるから危険なのよ。あ、そういえばね、この幼稚園でいったどこそこの公園の土壌が放射能値が高くて(延々)」

といった具合だ。

あっと言う間にハンドルを持って行かれてしまうのでうかうかしていられない。

そうやって魔の「永遠に終わらない放射能の話」地域に入ってしまったら出ることが非常に困難である。


その日も授業が終わり、楽しい話をしつつ二人でゆらゆらと駐車場方面へ歩いていった。そして大体いつもの立ち位置になんとなく立ち止まり、会話を続ける。毎回かなえさんが逆光の位置になっているところも変わらない。


そして冒頭に話したようになんとなく自然な流れで放射能の話に持って行かれてしまった。

行動の流れは毎回きっちり同じだった。


以降、「モデルのかなえさん 3」と全く変わらない。


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(図1)




かなえさんは例の「逆光の中に深々と見開かれたねこぢるの目」(図1)

で放射能の話を延々と続け、

私は必死でこれをどうやって終わらそうかとあの手この手を頭の中で策略を巡らすがかなえさんは微動だにしない。

1時間近く経ってようやく私が「さあ、もう帰らないと!」とシンプル極まりない雄叫びをあげてやっと話が終わる。


というシナリオは、8回きっちり同じ時間配分で美しく上演された。

すなわち


・授業が終わり、話をしながらゆらゆらと駐車場へ歩く 4

・平和な世間話 4分

・かなえさんの放射能の話 50分 

  その間 ミャーコの心の中の50分の内訳

     ひたすらどうやってこの話を終わらせるか策略を巡らしつつ実行に移すがかなえさんはビクともしない 45

     さすがに肉体的に疲れてきたので本格的に話を終わらせる覚悟をじわじわ決める 5

・ミャーコ、ついに痺れを切らし「もう帰りましょう!」と叫び、話終了 10


全て 58分10秒




きっちり同じ時間かどうかは測っていないのでもちろんわからないが、かなえさんの性格からなんとなくそう感じるのである。


短気な私がなぜかかなえさんに対して一度もブチギレることがなかったのが不思議だ。放射能の話の間、イライラすることが全くなく、むしろ怒りすら全く感じなかったのはなぜなのだろう。


もし、会社の帰り道に、なぜか毎回同じ地点で神隠しにあい、墓場めいたところを延々と歩く霊体験をすることになったら、それはとてつもない恐怖だろう。


イライラしたり、怒る、という態度の人はいないだろう。


それと同じなのだ。


かなえさんは底知れないヒトなので、ただただあっけにとられて仰ぎ見ることしか出来ない存在だった。



モデルのかなえさん 5 に続く


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※登場人物は全て実在しますが、プライバシーを考えて仮名にしてあります。



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モデルの休憩時間は、かなえさんとずっと喋っていた。


頭はいいし、姿勢は良すぎるし、喋り方は松田聖子だし、ものを見る切り口が斬新すぎるし、彼女と話していると色々な意味で全く飽きなかった。


授業が終わってなおも二人でゆらゆらと歩きながら話をしつつ、イベントステージなど楽しげな施設がある大きな中庭を抜け、一つの村ぐらいは平気で入りそうな巨大な駐車場まで歩いて行き、歩行者のためのスペースになんとなく突っ立ち、そのままさらに話を続けた。


かなえさんの着ているものに話が及んだ。

まだ4月なのに薄手のぴったりとした長袖シャツ一枚だったので寒くはないかと聞いた。

「これ、ユニクロで買ったんよ。素材が特殊で、全く寒くないんよー!空気を通さないから、暖かさが保持されるのよねー!」


バレエをしていて姿勢がいいので、普通のシャツを着ているだけでも一輪挿しの花のように可憐なかなえさんがそうやって服の素晴らしさを語るとすごく説得力があり、見事な広告塔といってよかった。



彼女は地元のエリートと結婚をしたが、離婚し、現在は子どもと二人で暮らしているという。

その割には随分立派な高級車に乗っているのでどうやって買ったんですかとズバリ聞いたところ、一括で現金で購入したという。

「いいものにお金をかけるのはいいことなんよ。今貯金はすっからかんなの。でも全く気にしてないんよ」

彼女の話は何もかもが規格外で、面白かった。



ちなみに当時は2011年の東北大震災の直後だった。


そのうち地震の話題になり、そして放射能の話へと突入していった。

彼女は放射能反対団体に属しているらしく、色々な情報を喋り始めた。


内容としては、

今回の放射能漏れに絡む政府の黒い思惑とか、この政党は放射能に関しては全く取り合ってくれないとか、どこぞの外食チェーンは放射能満載のものを使っているから絶対に行ってはいけないとか、新聞の裏側にしか書かれていないようなことばかりだったので、私は 「あぁうん」「へーそうなんだー」「ぁあそれはちょっと知らない」というような消極的な反応しか返せなくなっていた。

こっそり時計を確認すると20分くらい経っている。足が少し疲れてきた。

どうしたら放射能の話を終わらせることができるのだろう。


疲れたことをアピールするように足を斜めに組み替えたり、わざと時計に目をやったり、ひっきりなしに来る車にあえて大げさに驚いて見せて自分たちの立っている場所はじゃまかもしれない、と暗示してみたりと会話がどうにか途切れるような小細工をしてみたが、かなえさんは感情のない人形のような目を逆光の中に深々と開き、直立不動のまま微動だにせずに話し続けている。


その目は私の黒目をしっかりと刺し貫いているので、いくらじたばたしても壁に釘で打ち付けられたトカゲの如く全く動くことが出来なかった。


猫の目は暗闇の中では黒目が充満し、一重まぶたの人が二重まぶたになったような感じになる。クリクリのお目目になってとても愛らしいのだが感情がなくて若干不気味である。

放射能の話をしている時のかなえさんはちょうどあんな目をしている。逆光の中であんな目に微動だにせず見つめられ続けたら不気味である。

ねこぢるの目、といったらわかるだろうか。


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↑ちょうどこんな感じです。


すでに40分経っていた。

小手先の小細工は無駄なのだと悟ったので、思い切った大胆な行動に出ることにした。


私はバッグの中からスマホを取り出しながら、かなり大きな声で、

「あれー、もう四時になりますねー!そろそろ帰んないとー!」と言った。


随分単純な行動ではあった。なんでこんな簡単なことができなかったのだろうか。

さすがに効果があったようで、ハッとしたのか、かなえさんの目の周りの筋肉がほんの少し大きく見開かれた。

その瞬間、取り憑いていた放射能の亡霊が彼女の背中からすうっと去っていったのを感じた。


かなえさんの中心軸がブレ出したのでこのタイミングを外すことなく「今日はとにかく帰りましょう!」という流れに持っていき、無事帰宅できたのだった。



モデルのかなえさん 4 に続く


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※登場人物は全て実在しますが、プライバシーを考えて仮名にしてあります。



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