2009年くらいだったか。
7月に写真モデルの仕事が入った。
台風が心配で、もしかしたら中止になる恐れがあったが、無事開催されてホッとした。
マネージャーはタマさんだった。
彼女の車で、大分から撮影地の玖珠へ向かった。
途中で、目の前を30キロくらいで走る車が現れた。しばらく1車線が続いたため、追い越すこともできずにやきもきしながら進んだ。
やがて車線が増え、私たちの後ろについていたミニクーパーがぐおおおおーと私たちとその前の低速カメ車を追い越し、そのまま凄まじいスピードで走っていった。
タマさんが、小声で「飛ーばす飛ばす…」とツッこんでいた。
やがて集合場所である広い駐車場に着くと、おっさんばかりがたくさん集まっていて、タマさんが連れてきた「今日のモデル」に一斉に視線が集中する。
皆さん文化的で紳士的カメラマンだが、この時ばかりはいつも野獣の群れに投げ込まれた子羊のような気分になる。
川の浅瀬で撮影が始まった。非常にしんどいポーズをしばらく取らされたり、とんでもないアクロバティックなポーズを取らされたり、写真のモデルはかなりハードである。移動する時に、カメラマンさんたちが、「気をつけてね」と言いながら手を取ってくれたりする。優しい。
ありがとうございますーなんて言いながら移動し、あちこちで撮影しているうち、
あれ?
んん?
と思った。
よぉ~く見ると、随分いい男がいるではないか!
年齢的には50歳くらいの、壮年である。
しかしそんな年齢など一切感じさせないかっこよさなのだ。
西洋人になった渡辺謙、といった顔で、ドンピシャで私の好みだ。
顔ツヤが異様に美しい。白人の肌が日に焼けるとピンク色みたいになるが、あんな肌色をしている。
もちろん日本の方だが、どこかに西洋人の血が入っているのかもと思わせる風貌だ。
髪の毛は、美しい波打つ銀髪である。背丈は175センチくらいか。
身につけているものはとてもスタイリッシュだ。
とにかく年齢を一切感じない。それはそれで随分不思議な感じだ。
「何なんだぁあー!このかっこいい男性はぁああああーーー!」
久々の一目惚れ!!!
俄然やる気が沸騰してきた。
自分でも、ポーズにシナを入れたりし始めたのがわかった。何となく、その男性のカメラに目線を向けることが多くなっていく。
そのうちその男性が「松本さん」と言う名前であることがわかった。
私の好意が何となく通じたのか、撮影が終わった後、照れ臭そうに名刺をくださった。
帰り、松本さんは自分の車に向かっていったが、それは朝のミニクーパーだった。
撮影会が終わり、帰りの車の中で、タマさんに
「松本さんってかっこいいですね」
と言った。
するとタマさんが、
「ちっ」と言ったのだ。
もちろんふざけてだが。
「どう言うことですかぁー??」と聞くと、
「私も松本さん狙ってたのよ。」と言うではないか。
やはりいい男はライバルが多いんだわ…。と思った。
「彼、いい年の取り方してるわよね」
とタマさんが言った。
それからしばらくは松本さんのことばかり考えていた。
写真付きの名刺をいただいていたので、机の前に貼っていつまでも眺めたりしていた。
名刺には県内のとある印刷会社の名前がプリントされてあった。
しかも、意外と近所に住んでいることが発覚した。
家から1キロほどのところにイオンがあり、そこで時折見かけたりしていた。
しかし、やはり仕事柄、声はかけづらく、何もなく終わってしまった。残念。
女性にモテてただろうなー。
今はどうされているのだろうと、現在の松本さんをフェイスブックでのぞいてみた。
え、ご兄弟の、お兄さん?と見紛うくらい、びっくりするくらい老けていた。
しかし、それもそのはずだ。よく考えたら、10年くらい経っているのだ。
渡辺謙が、井上陽水になっていた。
今だったら、緊張せずに声をかけられそうだった。
続く
※登場人物は実在の存在ですが、プライバシー保護のため仮名にしてあります。
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