絵画モデルはやめられない

20年間、絵画モデルをしていました。謎に満ちた世界の体験を余すことなく綴っています。

2018年03月

モデル休憩中に、生徒さんたちの絵を見て回ってると、素晴らしい水彩画があり、しばし見とれていた。


作者は、90歳くらいのご婦人である。

このようなご高齢で、素晴らしい色彩感覚と斬新な感性を持たれていることに感動し、人生の質は年齢なんかで決まるものではないなぁ、などと深く感心しながら作品を鑑賞していた。


ご婦人は、「まぁ~、モデルさん、そんなに見ないで、恥ずかしいわぁ~」としきりに照れている。

私は、「素晴らしいですね!」と思わず言ってしまった。


すると他の生徒さんも集まり、その方の絵を「あら、ほんと、素敵ね!」などと褒めている。


すると、宮瀬んじいちゃんが、「ご婦人方、何を陽気にやっておられるのだ、ヨッ!」という感じでこちらにやってくる。

そして、どれどれ、とその絵の前に座り、「今からこの絵を僕が添削してあげよう」と身振り手振りで言っている。


彼は絵筆で、鮮やかな色合いの背景に、暗い濁った色をチョン、と付け加えた。

「少し暗い色を混ぜたほうが絵に深みが出る」と身振り手振りで主張している。


ご婦人は、感心しているそぶりだが不安そうだ。


彼は、なおも、チョン、チョン、と暗い色をバックに足していくが、ご婦人の顔には不安が増して行く。


見ているおばちゃんたちが「宮瀬さん、そのくらいでいいんじゃない?」とざわめきだしているが、彼はバックをどんどん暗い色で染めていっているではないか。


「あ、ちょっ、み、宮瀬さん!」

「あぁっ…!!


そして、なぜか彼は、興に任せて絵全体を一気に暗い色でバァーっと塗ってしまった。というより、汚してしまった。

さっきまであんなに美しかった絵が、もう暗い灰色に汚れてしまっている。


「いやぁーっ!!!やめてぇーっ!!」

「あぁーーっ!」

「宮瀬さん、汚さないでーーーー!!」


昼下がりの午後の教室におばちゃんたちの絶叫が響き渡る。


先生でもないのに他人の絵を絵筆でじかに添削し、挙げ句の果てには真っ黒けに汚しまくるという、相変わらずお茶目な宮瀬さんだった。


「毒のない人」終わり 


※登場人物は実在していますが全て仮名です。


画布の上を滑る鉛筆音のみが響く教室でポーズをとっていると、宮瀬んじいちゃん(大分弁で、宮瀬のおじいさん)が、パイプ椅子からゆっくり立ち上がり、そのまま不思議な位置にぼうっと突っ立っている。


誰かの作品を鑑賞している位置でもなく、モデルの私をじっくり違う角度から観察するための位置でもない。


ただ無意味な位置に突っ立っている。


彼は一体何がしたいのか。


宮瀬んじいちゃんは、しばらくそのまま前後左右に軽く揺れ、またゆっくりと椅子に腰をおろした。


たまらないことに、これを1授業あたり数回やるのだ。


立つ位置がまた絶妙に無意味な場所なのも辛かった。


私は笑いをこらえるのに必死で、生徒さんからも、「面白いわよねぇ、笑ってしまうよねぇ」などと気を使っていただく始末。


もうどうしようもなくなり、宮瀬んじいちゃんが立ち上がり出したら即座に目をつぶるようにした。


それを繰り返すうちにだんだんと慣れてきて、宮瀬んじいちゃんが立ち上がっても笑わずにいられるようになった。



3につづく


※登場人物は実在の人物ですがプライバシーを考慮して全て仮名にしてあります。

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