絵画モデルはやめられない

20年間、絵画モデルをしていました。謎に満ちた世界の体験を余すことなく綴っています。

2019年03月

2009年くらいだったか。

緑ヶ丘高校の木炭デッサンと油絵の夏休み講習会に呼ばれた。

暇な夏時期には嬉しいまとまった仕事だった。

いくつかの教室に分かれてするので、他のモデルも何人か来るとのことだった。


特に事務所があるわけでもないため、他のモデルと会うことなど滅多にない。

どんな人が来るのか楽しみでもあり、不安でもあった。


暑い暑い中車を走らせ高校に着き、職員用玄関の来客者名簿に名前を書く。他のモデルも何人かもう来ていて、知っている名前もあった。

皆、大概本名ではないモデル名を持っていた。


油絵科の教室に向かって階段を上がっていると、見たことのないモデルが後ろから階段を上がってきた。


背丈はちょうど私と同じくらい。痩せていて、明るい茶色の長い髪の毛を女っぽく無造作に束ねている。
顔立ちはそこまで派手でもなく、日本的だ。
恐ろしく厚化粧をしているわけでもないが、顎とか首がすっきりとしていて、老廃物が溜まっている感じがしない。
「おおっ、なんか綺麗な人だなあー!」と思った。ちょっといい女タイプとでも言おうか。

(もちろんお世辞ではない。私がお世辞を言うのはしのぶちゃんのみである。)


彼女は遠くからボールをポーンと投げるように、飾り気なく気さくに話しかけてきた。


「あらあ、モデルさん?ヌード?私もよぉー。教室って2つあるのよねえ。どっちかしらぁ」


ヌードモデルさんは事務所全体でおそらく四、五人くらいしかいなく、皆知ってる顔なので、初めて見る彼女は新入りか復帰かのどちらかだと思った。


しかしこのこなれた感じと、初めからいきなりヌードは珍しいので、復帰の可能性が高かった。


なんとなく、子持ちっぽい雰囲気だったので、子どもに手がかからなくなってからの復帰ではないかと感じた。


「私ねえ、近藤サチエっていうの、よろしくぅ」


それがサチエちゃんとの出会いである。


サチエちゃんは、オカマみたいな女性らしい喋り方をする。

いや、褒めているんです。

オカマ喋りには個人的にはすごく憧れるのだ。

私もIKKOさんみたいな喋り方ができる女性になりたいなあと思う。


油絵科で1ポーズ目が終わり、休憩室で休んでいるとサチエちゃんが部屋に飛び込んできた。


「ねえミャー子ちゃん、タンポン持ってないかしらぁ!生理になっちゃったのよう。タンポンじゃないとやばいわぁ、タンポンタンポン!」


「私、持ってないなぁ。タンポンは、したことないんよ」


「誰かタンポン持ってないかしら、どうしようタンポン! 私ねえ、タンポン派なのよ」


サチエちゃんは髪の毛を頭のてっぺんで無造作におだんごにくくり、毛先をオシャレに散らしていて、それを見ただけで、センスのいい人と分かる。

しかし彼女が「タンポンタンポン」と叫ぶと同時ににそのオシャレ毛先が飛行機のプロペラのように動くので、私は笑いだしそうになっていて、必死に無表情をこしらえていたが目の奥の薄笑いは漏れ出てしまっていたと思う。
サチエちゃんの顔がほんの少し怪訝そうに曇ったからだ。



授業が終わり、玄関の名簿に退出のチェックをしているとサチエちゃんもやってきた。

彼女は名簿を見ながら、

「あっらぁー、ミャー子ちゃんお疲れさまぁ。まあー、モデルさんたち、みんな素敵な名前つけてるのねぇ。藤下さくら水城マリアですって!

私なんか こ・ん・ど・う・さ・ち・え よ!ダサいったらありゃしないわ。」と言った。


私は笑いを噛み殺しながら、「サチエちゃんて面白い人ですね」と言った。


「あっらぁー、ありがとう!私なんか、嫌われるか面白がられるかのどっちかだからねぇ」


確かに強烈なキャラのようだ。


「あたしなんか不良だからサ」とサチエちゃんはよく言っていたが、どっこい、実はすごい女性であった。


数年後にとんでもない偉業を成し遂げることになる。




続く


登場人物は実在の存在ですが、プライバシー保護のため仮名にしてあります。



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しのぶのことを、しきりに「綺麗な人」と形容してきたが、心の底からそう思っていたわけではない。

このままでは私の美意識が勘違いされてしまうので、ちょっと言い訳させてほしい。

あの手のぶりっ子女子アナウンサー系の女性を心から美しいなんて思ったことはない。
同じ女子アナでいうならNHKの女子アナの方が大好きだ。全くもって品位が違う。 


しかもしのぶはよく見たらロバに似ていたし、ホステスのバイトをしていただけあって肌のたるみがひどかった。


それを隠そうとあそこまで一生懸命化粧をして、あそこまで綺麗な喋り方をして、あそこまで心配りできる女性を演じているのだから、綺麗と言ってあげないとかわいそうだったというそれだけの話だ。


東京に引っ越した彼女から電話がかかってきたことがあったが、娘の幼稚園に黒木瞳の娘が通っているという話をされた。

要するにお高い幼稚園に通わせていることを言いたかったんだね、と子持ちの今となって自慢話だったことに気がついた。


彼女がお見合いをセッティングしてくれたことがあった。

一応仲介者として同席した彼女のまあ美しいこと。フェロモンムンムンでヘアスタイルも化粧も相変わらずバッチリだ。ホステスだからまあ盛り上げるのが上手。酒でも入ってるのかというくらい。


どう考えたって私は日陰に追いやられるでしょうが。


相手の男性も、始終しのぶに目がハートだった。


もちろん何も見を結ばず終わった。


しのぶは異様に頭の回転が早く、お子ちゃまの私は思い切り振り回されてきただけだった。



 

もう彼女の話は終わりにしたい。 



次回からはまた平和な体験談を書いていきますので安心してくださいね。



続く


登場人物は実在の存在ですが、プライバシー保護のため仮名にしてあります。




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