ミスユニバースが、ランウェイ上をきらびやかなドレスを翻しながら美しく歩いている途中、スカートがずり落ちてしまい、丸見えになった下着が、中学1年生の腐女子が履いているようなお腹まで隠れる綿パンツだったら、見てはいけないものを見てこちらも恥ずかしくなるし、ひどくがっかりするが、そんな出来事があった。
大分市郊外のとある町でモデルの仕事が入った。
遠方の町で2時間のコスチュームモデルという、仕事としては一番利ざやの薄い類のものだったが,
直々のご指名なので断ることができなかった。
初めての教室だったので、一体誰が指名してくれたのか不思議だったが、教室に着くと馴染みのデッサン教室の生徒の女性がいて、彼女が指名してくれたことが分かった。
彼女はリーダーシップがあり、モデルに対しても常に心配りがあり、ちょっと尊敬できるカッコいいおばちゃんだった。
大きなフェイクの宝石が沢山アップリケしてある、一体どこで購入したのかわからない奇妙なセーターを着ている主婦が、教室の中心で皆に囲まれながら、旦那や息子の愚痴を幼稚園の女の子みたいな騒がしさでしゃべっている。周りの主婦は彼女を取り囲んで、くだらない愚痴を楽しそうに聞いており、変なセーターや、なんだかんだ言って大して苦労していないことをうかがわせる彼女の肌の艶やかさをを褒めちぎったりしている。
宗教室に集う文部省推薦文化上級マダムたちから滲み出る教養の豊かさ、上品さと比べると、そこそこ金を持て余しただけの退屈な主婦で溢れかえったその日の教室は、まるで幼稚な女子校のようだった。
そうこうしていたら講師の高山先生(仮名)が入ってきた。
大分では有名な人で、人生油絵ひとすじといった風情の人であ
る。
「あー、この人が有名な高山先生かー!」と少しテンションが上がる。
しかしながら、先生は、「モデルさんが来た」と気づいたのに、挨拶が一度もなかった。
おかしいな、授業の終わりに何か言ってくるのかな、と思ったが何も話しかけて来なかった。
毎週水曜日に授業がある1ヶ月の間、とうとう最後まで話しかけてくることもなかった。
ただただ不思議なものでも眺めるかのように、遠くから遠慮がちにモデルを観察しているだけで、そこらへんのおとなしい男子生徒となにも変わらなかった。
どうやら、
「芸術家ですから人見知りなんです、芸術家だからそこらへん許してくれるやろ、有名な俺って挨拶も出来なくていかにも芸術家っぽいやろ」的なスタンスでいる様に見え、そんな自分の芸術家イメージに酔っている先生の勘違いぶりに対して随分しらじらとした気持ちになった。
芸術家ぶるよりも先に挨拶くらいしろって思う。
大分中、ひいては九州中のありとあらゆる教室に行ったが、教室の講師ともいうべき人は必ずモデルに挨拶をし、皆に「今日のモデルさん」と言って紹介してくれた。
休み時間には「寒くないですか」とか「コーヒーどうぞ」とか気を使ってくださった。
そうするのが自然だろうし、単純に仕事も進まないので、言わずもがなの一般常識ってやつだろう。
今まで100人近くもの数多くの先生たちとお仕事をしてきたが、講師という立場で、1ヶ月もの間モデルと一言も喋らない先生は、もちろん一人もいなかった。
芸術家ぶることだけに専念して目の前の人に挨拶もしようとしない、ひいては挨拶をしないことが芸術家であると勘違いしている高山先生に対しては一気に気持ちが冷めてしまった。
これから先生の絵を見ても私の瞳は全く輝かないだろうと思うと残念だった。
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※登場人物は全て実在しますが、プライバシーを考えて仮名にしてあります。
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