大分合同新聞のシニア向け文化教室でモデルの仕事が入った。

「今回は、モデル2人なのよ」と電話の向こうでタマさんが言うので、私は「いやだなあ」と素直に思った。

2人体制のモデルとしてはこれが初めてだった。

自分1人をちやほやしてくれるのが嬉しいのに、2人だなんて。

生徒さんの取り合いみたいな血みどろバトルが繰り広げられるんじゃなかろーか、と、経験したことがないゆえにいろいろと不安は尽きなかった。

当日、教室に入ると、もう1人のモデルはもう先に来ていた。

19か20歳くらい、身長160センチくらいでやせ形だったので、似たような外見の2人を揃えた、といった風情だった。

しかし、彼女は目鼻立ちがはっきりしていて、ものすごくおしゃれなファッションをしていた。
胸元の大きく開いたタンクトップの上にレース編みのストールを羽織り、思い切り短い丈のショートパンツから伸びた細長い足がまるで華奢な花の茎のようだ。
明るい栗色の髪の毛は軽くパーマをかけてキラキラとムースでコーティングし、しかも何やら左右対称ではなく右側にだけふわりと髪を流し、大きくてキラキラ揺れるイヤリングがよく映えている。
最先端のおしゃれ街角スナップにでも出てきそうな子だった。

一方私は、ワイン色のハイネックのセーターに膝丈の巻きスカートにタイツにブーツにポニーテール。それだけの言葉で説明がついてしまう単調な服装であり、密かに彼女に退け目を感じていた。

生徒がイーゼルを立てて準備をしている間、私たちは軽い挨拶を交わし、何か話をした。

何度も言うが、当時19の私は、にっこり笑ってこんにちは、という事が下手だった。
私と言葉を交わした後、相手のモデルの顔色がなんとなく不安色に染まったような気がしたので、自分の社交性に1パーセントも自信がなかった私は、「ああ、また私のしゃべり方が怖かったかな」とかすかに心配した。

生徒さんの準備が整い、私たちは用意された2つのモデル台にそれぞれ立った。
まずモデルがポーズをとって、それを見ながら生徒が「どっちを描こうか」と決める形ではなく、しかも教室に3、40人の生徒さんがぎゅう詰めになっているのであまり自由に動くこともできないため、目の前に来たモデルを描かざるをえない状況になっていた。
結果的に、心配していたような生徒たちの奪い合いみたいな事態にはならなかったので、ひとまず安心した。

それでも、ある男性の生徒さんが「ぼくはこっち描こーっと」とわざわざイーゼルを動かして、私の方に来てくれたのは、嬉しかった。


1日目の仕事が終わり、翌週水曜日にまた同じ教室がある。私は同じ服を着て、教室に入った。

もう1人のモデルはまだ来ていないようだった。

5分前になっても来ないので、おかしいな??と思った。

結局私1人でモデルをすることになった。

授業が始まっても来ないので、遅刻かな?と思ったが、
結局彼女は最後まで来なかった。
あと2回、同じ教室があったが、結局私1人のモデルとなった。

見事なドタキャンであった。

どうしてあの人こなっかったのかなぁ〜??フ・シ・ギ…とぼんやり考えた。
私の愛想のないしゃべり方が怖かったからかなぁ〜。なんか他にも理由があるのかなぁ。

しかし
そんなことは仕事には一切関係ないではないか。

嫌なことがあるからとモデルに途中でドタキャンされたら、描く側としては教室に来るまでの交通費とか、労力とか、紙とかカンバスとか、コンテとかパステルとか、絵の具とか、時間とか、これからああしようこうしようという構想など、いろいろなことが無駄になってしまう。
そういうことを考えると節約志向の私としてはドタキャンみたいな贅沢なことはとても出来ない。 

しばらく経って、タマさんにこのことを言った。一体、あれはなんだったのでしょう?と。

「ああ、あれねぇ〜!本当にびっくりよねぇ〜!」と普段感情を出さないタマさんが怒っていた。

「こっちもすごい迷惑こうむったのよ〜。もうあのモデルは使わないようにしてるのよ〜」とタマさんが言った時、私はかすかに緊張感を感じた。

なんかやらかしたら仕事入れてもらえなくなるのか…。あーこわ。気をつけよう、となお一層真面目にモデルの仕事をしよう、とその時思った。


(登場人物は実在の人物ですが、全て仮名にしてあります。)





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