写真モデルの時は、時折おかしな男が1人は紛れ込んでいて、モデルの股の間ばかりを撮ろうと狙っていたりしている。
そんなやつのカメラには一切視線を投げない、という仕打ちで返すのがモデルの間の無言の決まりごとみたいになっている。
しかしながら美術の教室の生徒さんはほぼ皆様、実に善良なる文化市民である。
おかしな動機でヌードモデルデッサンに来ている人間など実は1パーセントもいない。
おそらく社会に溶け込んでいる凶悪犯罪者の人数の割合くらいではなかろうか。
テレビや雑誌などで時折センセーショナルに取り上げられたりしているのを見ると、その現実との乖離ぶりにびっくりしてしまう。マスコミは現実をうまいこと捻じ曲げて、ずるいなあと思う。
しかし、その1パーセントに当たったことがあった。
大分県別府市の某B大学で、ヌードモデルの仕事が入った。担当はS教授だった。もう70歳くらいのジジイだ。
油絵科の専攻科での授業だった。
S教授が指定してくるポーズというのが、なんとM字開脚だ。
どんな要求にも応えてきたが、これには流石に気がひけた。
「うーん…ちょっと無理です…。」
というと、次に指定してくるポーズも、あそこが見えるポーズ。
かなり無理強いしてくる。
「基本的に、あそこが見えるポーズというのは多分ダメだと思うんですよね…。法的に禁じられてると思います…。」と答えた。
するとS教授はひどくびっくりした顔をして、
「えー!?君みたいなモデルさんは初めてだよ!!大概の人はやってくれるよ?」
という。
まるで私に非があるかのような言い方だ。
でも、無理なものは無理だ。もしかしたら、やってもいいのかもしれない。でも、自分自身の問題として、抵抗があったし、これはなんだかおかしいという違和感もあった。
結局私が頑なに拒否し、普通のポーズで授業が続けられた。
その日の夕方、タマさんから電話があった。
「あのさあ…。今日ね、ミャー子のモデルぶりにクレームが入って…。お願いするポーズを全て却下されて、何も生徒の要望に応えてくれなかったって言うのよねえ…」
と言うので、B大学であった事ありのままを話した。
するとタマさんが、
「はぁああ??なんですって??」と言う。
「あいつ!!!あのS!!!また戻ってきたの?そうよね、なんかおかしいなぁーーって思ったのよ!!!」と凄まじい怒りに満ちた声で言う。
どうやら、S教授はセクハラでかなり有名らしいのだ。
過去にやはりポーズをめぐってモデルと随分なトラブルになり、タマさんはカンカンだったらしい。
あのS教授の仕事だけは絶対入れないようにしていたらしい。
「定年で退官したから安心してたのに!戻ってきたの?許さない!!」
とカンカンだ。
「なぜ、大学側や警察に言わないのですか?」と聞くと、
「ヌードモデルも際どい職業でしょ?股を開いたらハイ、犯罪ねーってなるのよ。だから私たちも堂々と言えない立場なのよね。それをいいことに、あいつはセコイこと言ってくるのよ!!!殺してやりたいわ!!!」
タマさんの怒りは相当だ。
まあ、私の疑惑は解けた。私の違和感は間違いなかったのだ。
私は一応、B大学で馴染みの浜田教授に伝えた。「注意して欲しいんですけどぉー」と言うと、浜田教授も、参っていた。今回の件で申し訳ない気持ちは心の底からある。しかし注意したくても、複雑な上下関係があってなかなか注意ができないと言う。
よく考えたら、それもそうだ。浜田教授の気持ちもよくわかる。普通、上司に「セクハラはやめたほうがいいですよ」なんて言えないわな。
続く
※登場人物は実在の存在ですが、プライバシー保護のため仮名にしてあります。
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