絵画モデルはやめられない

20年間、絵画モデルをしていました。謎に満ちた世界の体験を余すことなく綴っています。

タグ:絵画教室

別府大学のデッサン教室に呼ばれた。


休み時間に
カーテンで囲まれた控え室で休んでいると
女生徒2人の会話が聞こえた。

(彼女達は、私が控え室にいる事に気づいていない。)

「けーこいーよねー」
と言っている。

「ケイコの絵、良いよねー」と、
ケイコという女生徒の絵が良いのか。

私の事を「毛が濃い」と言っているのか。

皆さんは、どちらが可能性高いと思う?

私は体毛が濃い。毛だけで言うと、ダイナミックな体だ。
十中八九こちらの可能性が高いが、今となっては真相は永遠に闇の中。

もう一つ。

緑ヶ丘高校のデッサン会で、
何人かのモデルが集められた。
いくつかの教室にわけられて、それぞれモデルがあてがわれた。

私の隣の部屋のモデルは、最近入ってきた年下の若い子。
目鼻立ちがパッチリしてて吹石一恵そっくりの人だった。

休み時間、控え室に入ってゆっくりしていると
女生徒たちの話し声が聞こえる。

「mこぉのモデルさん めっちゃキレイじゃない?」

この小さな「m」が極めて重要なのだ。

このモデルさん(私のこと)

なのか

向こうのモデルさん(隣の部屋)
なのか?

小さなmがあるか無いかで、結果は全く違ってくる。

これも今となっては永遠に闇の中。



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※登場人物は全て実在しますが、プライバシーを考えて仮名にしてあります。


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…と言いたくなることは2、3あったっけ。


天草の海辺の秘境で撮影会をしていた時のこと。
カメラマンたち以外誰もいないと思っていたら、海岸沿いから外国人の若い女性が現れて、私たちに話しかけてきた。

「ヘーイ!何してるの?」

おっちゃん達の注意が一斉に彼女に惹きつけられた。

「あら、撮影会みたいなことしてるのね!私も撮ってよ」」と彼女は扇情的なポーズをとり始めた。

大胆、セクシー、魅力的、ラテン系美女。

すでに私は負けているではないか。

おっちゃん達は私の存在を完全に忘れて彼女の方へと群がってバシャバシャとシャッターを切り始めた。

私の隣にいたタマさんの顔色がさっと変わったのがわかった。

彼女が
「戻ってきてください!」
と注意をすると女性はすぐに消え、おっちゃん達は元に戻ってきたが、私は自信を無くしてしまった。

もう一つ。

これも撮影会での話だが、その日のマネージャーはえりこさんという人だった。

夏休みに、緑ヶ丘高校の合同デッサン会があり、控え室にはモデルが4、5人いた。

その中で、クリス松村っぽい女性がさちえちゃんと2人でタバコをふかしながらだれかの文句を喋っていた。
マツコとIKKOさんが新宿二丁目のお店で喋ってるのかなと一瞬見紛った。

クリス松村は「まったくやってらんないわよぉ」と片方の表情をゆがめた笑顔で初対面の私に「ねェ」と言ってきた。


それがえりこさんだった。

ある日の撮影会のマネージャーはえりこさんだった。
送り迎えの軽自動車内はサルサの音楽が流れていて、無防備な太陽の光はえり子さんの肌をしっかり侵食しているようだったが彼女は全く気にしてないようだった。

撮影地に着いてカメラマン達に挨拶をすると、彼らはマネージャーのえりこさんに一斉に惹きつけられた。
えりこさんは7頭身くらいあって顔が小さく、目鼻立ちがはっきりしていてふわふわのロングヘアーに大きな麦わら帽子で、まるで向日葵のように華やかだった。
「おおおー!マネージャーさんを撮影したいなあー!」とおっちゃん達は騒ぎ立てる。

こういう時は「私ですみませんねぇ…」と申し訳なくなる。





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※登場人物は全て実在しますが、プライバシーを考えて仮名にしてあります。


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街のあちこちから温泉の湯煙が立ち上り、
昭和初期のレトロな空気感が人びとを魅了してやまない街、別府

大分が世界に誇る観光地である。

そんな別府を象徴するような建物が「別府中央公民館」である。

昭和2年に建築された、まさに昭和レトロそのもの。


そこで月に一回行われる「葵会」というグループのデッサン会にモデルとしてよばれていた。


いつも夜の7時からなので、昼間の印刷会社でのアルバイトの後にかけつけることが多く、この仕事の時いつも私は疲れ切っていた。


とにかく古い建物である。生徒より一足先に来てモデル控室で着替えて待っている。

公民館にはまだ誰もおらず、館内は頭をギュッと締め付けるほどの濃密な静けさで浸されている。


天井は高く、上の方は暗くなっていてみえない。

廊下は昔ながらの赤いビロードの絨毯がひかれている。
廊下が伸びる先は暗くなっていてみえない。

耳を澄ますと、どこかの部屋から詩吟の声が聞こえる。

しかしそれはすぐに館内を満たす暗闇に吸い込まれて跡形もなく消えるので、なお一層静けさが際立つ。


闇と、赤いビロードと、闇に消える詩吟の声は空気穴をふさぐように私をつつみ、頭の中にはまろやかな暗闇があるばかりだった。


その感覚にゆったり浸っていると、やがて生徒たちの声が聞こえてくる。

隣の教室に生徒が集まってくる様子がわかるので、19時ちょっと前になったら私も教室に入る。


別府の人は、どうやら陽気な人が多いようだ。そりゃそうである、人々は常に温泉で裸の付き合いをしているのだから。


葵会のメンバーも皆さん陽気で、授業中に会話が途切れることは無かった。


なかでも特にユニークな生徒さんで、猫枕さんというおじちゃんがいた。


名前の通り、ユーモア溢れる外見と人間性の方だった。


モジャモジャふわふわヘアーに鶴瓶そっくりの顔、ぬいぐるみのような体型、カラフルなセーターという、そのままゆるキャラにしたいような外観。


彼はいつも面白いことばかり言って皆を笑わせ、優しーい声でモデルの私に何かと話しかけてくれた。


皆、猫枕さんのことが好きだった。


昔、うつ病で苦しんだ過去をもつ中学校の先生が、


「偉くならなくてもいい。優しい人になってください」


という言葉を、卒業生に贈っていた。


素敵な言葉だと思った。


猫枕さんを思い出すといつもこの言葉も思い出す。

他人をマウントすることばかり考えている人が多いが猫枕さんはその逆だった。



もう一人、水川さんというおばちゃんがいたが、この方もいつも明るく、表情が曇っているのをみたことがなかった。


顔だちは加藤茶に似ていて、とても整っていた。


そして、もう60歳はとっくに過ぎているはずなのに、顔にシミとシワがひとつも見当たらなかった。別府の温泉に毎日入っているとこうなるのだろうか。


とにかくいつも気持ち悪いくらいに明るくて、面白い人だった。


水川さんのお母様が亡くなられた時も「母ちゃんの墓前の前で踊りを踊っちゃるんよ、母ちゃん、見とるかえーってな!ぎゃははは」
と恐ろしく明るい笑顔で言う。

何だか面白い人だなと思っていた。


そんな水川さんが個展をするというので、友人と観に行った。

絵はどれも素晴らしかったが、個展会場にいた水川さんの着ているものが気になってしょうがなかった。

一見、なんていうことのないごく普通のデニムのジャケットに、ジーンズ。


しかし、デニムのあのかすれたブルーの生地感、ニッケルのボタン、ポケット、チャック、デニムの縫い目


全てがプリントだった。

襟までプリントだった。


よくこんな不思議な服があったもんだ。


個展からの帰り、友人と話題にしたのはその不思議な服のことだった。

友人「あのう水川さんの服見ました?」

私「見た!全部プリントだったよね!襟も、ポケットも、ジーンズの生地も、ボタンも、チャックも!縫い目までプリントだったよね」

友人「あんな服どこに売ってるんでしょうね


そういう服を着るのも、水川さんらしい。



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※登場人物は全て実在しますが、プライバシーを考えて仮名にしてあります。


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美大にて油絵の授業に呼ばれた。


ポーズの合間の休憩に、1人の女生徒が話しかけてくれた。

「モデルさんも絵を描かれるんですか」


その時

「はい、描きます」とだけ答えた。別にぶっきらぼうに答えたわけでもなく、普通に質問に

答えたつもりだったが、その女生徒はなぜか怒ったように向こうへ行ってしまった。

話を膨らませようとしない私にムッとしたのだと思う。


しかしその女生徒もそれ以上質問してこなかったし、休憩の時間も限られているので、そうそう話を膨らませられないという理由もあった。

私に悪気は全くなかった。



個展を開いた時、見知らぬ若い女の子が見にきてくれた。

私は他のお客と喋っていて、ひっそり見て回っている様子のその女の子に、挨拶もできずにいた。


私の話し相手が帰ってもその女の子がまだ見てくれているので、


「今日はありがとうございます」と声をかけた。


「大分大学の〇〇です」

というので、ハテ誰かしらと思っていると、なんと私がモデルに入っている彫刻のクラスの生徒さんだった。個展案内をそのクラスの皆さんに配っていたのだが、わざわざ来てくれたのだった。


モデルのポーズ中は、変に目が合わないよう生徒一人一人をじろじろ見ることはない。


したがって誰が誰だかあまり分からない。


話しかけてくれたりすると記憶に残るが、そうでない場合はほとんど記憶にのこらない。

だから全く分からなかったがしょうがない。

女の子の方は、もちろん覚えていてくれている、と思っていたようだが。


このようにモデルと生徒の間には温度差がある。

モデル特有の事情があるのだが、悪気はまったくないのだ。



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※登場人物は全て実在しますが、プライバシーを考えて仮名にしてあります。


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定期的な仕事としては、

月に一度のコトブキヤ画材店のデッサン教室があった。

控室の大きな窓からは、大分駅裏の再開発工事の様子が夕焼けに映えて美しかった。授業が終わる頃には工事中のクレーンの光や建物内部の光などが輝き、そこだけ大都会の夜景のようだった。


会の主催者は大友さんという、吉四六喋りが何ともほっこりする方である。

吉四六喋りとは何か。

大分県外の方は分からないだろうから説明すると、大分方言丸出しのおっちゃん、ということだ。

どの地域においても、その地方の方言丸出しのおじちゃんはほっこりするものだ。


時折新規の方が来るものの、大体はほぼ顔ぶれの決まった78人である。


7年もの間、月一でお世話になった教室である。皆様とはすっかり顔馴染みだった。


私が結婚が決まり、モデルの仕事も辞めることになった。

その日は最後のコトブキヤの教室だった。

授業の終わりにちょっとした歓送会を開いてくださった。

そして大友さんが、模造紙に書いた私宛の巨大なラブレターを後ろの黒板に貼り出した。


マジックで手書きの字も、1文字の大きさが赤ん坊の顔くらいあり、なんともユニークなラブレターだった。


「もでるさんいままでありがとう あなたのことはわすれません」

といったような内容で、全てひらがなだった気がする。


濱田岳のナレーターで上の文章を読む感じがそのまま大友さんの雰囲気である。


「おおお」

と思ったが、会はそのまま終わり、なんとなくそのラブレターをもらいそびれてしまった。もらいたかったのに、何となくの流れでそうなってしまったのだ。


大友さんの残念そうな悲しそうなお顔が忘れられず、今となってはもらっとけばよかったなあと思う。

「そのでっかい手紙ください!」と叫べばよかった。



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